バスの後部座席って、二人座れるようになってるじゃないですか。
空いてる時って、そこに一人ずつ座るんですよね。
で、その席が僕も含めて各席一人ずつで埋まってた状態でバスが出発したんですよ。
バス停に停車する度に人が増えていき、座りたい人は後部座席の方へ来る。
次々に席が埋まっていく。
でも僕の隣には誰もこない。
「相変わらず、すげえぜ…人よけスキル」
我ながら惚れ惚れしてしまう。
悲しいけど思わず唸ってしまう。
そしてやっぱり悲しくて涙がぽろぽろ。
思ひ出もぽろぽろ。
普通にスーツを着ているはずの僕ですが、人よけスキルは衰えない。
電車の中でもそうだ。
なかなか人が僕の隣に座らない。他の席は埋まっていくというのに。
マスクか?
マスクがダメなのか?
なんで前にいる男性の隣には女性が座るのに・・・!!
そんな悔し涙を飲んだこともしばしば。
でもいいんだ。
人が隣にこない・・・と気楽だ・・・し・・・。
あれ?
何これ?
涙?
ははは、まさか・・・ね。
「そのまさかだよ」
背後からの突然の声。
「誰です?」
「誰でもいいじゃないか。それより、ほら・・・涙が出ているぞ?」
「ち、違います。これは涙なんかじゃないです」
「じゃあ何だいそれは?まさか汗とでも言うんじゃなかろうな?」
「あ、汗みたいなもんですよ。別にあんたには関係ないじゃないですか。ていうか、誰なんですかあんたは?突然後ろから声をかけて。怖いんすけど」
「怖い怖い言うわりには威勢がいいな。まあ、それは怖いから威勢がいいのか。ただの強がりか・・・その涙と一緒だな」
「まだ引っ張るんですね、涙」
「せっかくだし、私の話を聞いてくれないか?人よけスキルを極めた、ある男の話を・・・」
その男の話は数時間に及び、一体僕は何を聞いているんだろうと思ったけど、気づくと次第に目から大量の汗が溢れていた。
そして僕は、世界はまだまだ広いことを知って、明日から少し新しい気持ちで生きていこうと思ったのです。
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