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回送電車

駅のホームで電車を待っていると、ちょうど電車がきた。

「回送列車となりますので、お客様はご乗車できません」

アナウンスが流れた。
そうか、これは回送か。
残念、次がくるまで待つか。
皆、黄色い線の内側に並んで次の電車を待っていた。

「ドアが閉まります。ご注意ください。」

その瞬間、旅行カバンを持った1人の女性が乗り込んだ。
なん・・・だと・・・!?
ドアが閉まった。
女性は腰を降ろした。
誰もいない車内に女性が1人。
まさに女性のためだけのオンステージ!
音を立てて動き出そうとする舞台。
なんだ、ドラマの撮影か。
と思っていると

「車内にお客様がご乗車いたしました。ドアを開けてください」

とアナウンス。
と同時に電車のドアが一斉に開いた。
しかし女性は座ったまま動かない。

ま、まさか!!
電車という舞台と同化してしまっているのではないだろうか・・・!?
そこにいる女性はすでに女性ではなく、電車なのだ。
電車という舞台なのだ。

急いでいたはずの僕も、いつの間にか魅入ってしまった。
他の人たちも同様にその女性に魅入ってしまった。
一体どういう展開になるのか・・・それだけが気になってしまった。
すると、その沈黙を破るかのように1人の男性が黄色い線の外側へ出て、彼女の元へと歩み寄った。

「この電車、回送ですよ」

「え?海藻?私、海藻好きなんです。電車が海藻でできているなんて素敵ですね」

なんて会話はせず、女性は「すみませんと申し訳なさそうに言うと、電車を降りた。
幕を下ろした舞台は誰も乗せずに去っていった。

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コメント一覧 (4件)

  • 回想という名の駅まで、連れて行ってほしかった。
    女優として…

  • あはははははっ(笑)
    >車内にお客様がご乗車いたしました。ドアを開けてください
    コレは誰から誰へのアナウンスなのかにゃ
    後輩車掌から先輩運転手への御願いか
    いや、後輩にイジメられてる先輩かも
    女性が乗り込んだのに気付きつつも
    ワザとドアを閉められ・・・
    下唇をかみ締めながら後輩に頼む先輩・・・
    あ・・・開けてください
    微妙な人間関係・・・力関係が漂うアナウンスに乾杯

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